交通専門部が合議体で下した判決を高裁で逆転
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京都地裁交通部の判決を大阪高裁で破り、
高額な逸失利益と将来介護料を認めさせた画期的事案
被害者と家族の深刻な事情に寄り添いながら、
憲法上の幸福権追求にまで踏み込んで一審の1.5倍の賠償額を獲得
原告の女性(28)が自転車で下り坂の青信号交差点を横断中、対向の左折車両が衝突。原告が脳挫傷による高次脳機能障害2級の後遺障害を負った事案です。
原告は大学を卒業し、一度は公務員の職に就いたものの退職。その後は、自己実現のためにアルバイトや契約社員をこなしながら勉強を続けていました。ところが事故当時は、病気療養中の家族の看護や家事をしなければならなかったため、ちょうど無職でした。
事故によって高次脳機能傷害2級を残した原告には、いわゆる物忘れや自発性の低下のほか、家族に暴力をふるったり自殺未遂をするなど、重篤な情動・人格の障害による異常行動がみられ、投薬で抑制してはいるものの、常に家族や介護者の看視(監視)と声掛けが欠かせず、家庭も崩壊寸前の状態でした。
一審の京都地裁交通専門部は、合議体で判決を出しましたが、逸失利益については事故前にアルバイト等の低収入だったことから、基礎収入を女性平均賃金の70%(約4,100万円)とし、介護料については、薬物で症状を抑制する施設入所前提の、日額5,000円(約3,400万円)という認定でした。
しかし、当ネットワークは、たとえ交通専門部が合議で出した判決であっても、結論ありきの裁判進行を受け入れることはせず、判決の事実認定を是正させるべく大阪高裁に控訴。介護料については、「投薬により他害行為・自害行為は収まっているものの、本人の意志を薬で抑制した状態で施設等に入所させることは、自己決定権を抑制するもので、憲法上の幸福追求権や、居住・移転の自由を侵害するものである」という観点から強く反論しました。
また、基礎収入については、原告がアルバイトや契約社員をしながら勉強する時間を割いていたことや、同時期に家族が病気療養のため家事をせざるをえなかった事情、つまり消極的な無職ではなく、やむを得ない状況であったこと等をこまかく立証。さらに、若年者の逸失利益について裁判所の共同提言がなされていること、原告は症状固定時29歳で同提言に該当することなどを主張しました。
その結果、二審の大阪高裁は当ネットワークの主張を全面的に採用し、
- 自宅介護を認め、将来介護料は日額8,000円(約5,470万円)に上昇
- 基礎収入は女子平均賃金年額の100%である350万円(約5,900万円)を認め、総損害額は約1億4,540万円に上昇
という判決を得ることができたのです。交通専門部の合議体が下した判断を、高裁において是正させた本件は、極めて稀な事例といえるでしょう。
結果的にこの賠償額は、一審判決の約1.5倍となり、ご家族には大変喜んで
いただくことができました。(6年間(約30%)の延滞利息は別途追加されました)
重篤な情動・人格の障害を負った高次脳機能障害者の介護料について、当ネットは、投薬で症状を抑制しているからといって施設入所を前提とするような介護料認定であってはならないと考えています。また、逸失利益についても、単に事故当時無職であったことのみを理由に、平均賃金の70%とするのは問題です。
交通事故により重篤な障害を負い、障害そのもので制限があるにもかかわらず、さらに被告への唯一の回復手段である損害賠償において、経済的に制限を加えることは、憲法上保障された人権にも抵触するものだからです。
また、本件のようなケースでは、『高次脳機能傷害2級=随時介護=介護料日額数千円』という定式ではなく、被害者の障害状況や家族の介護負担に応じて、注意、看視、声かけ等の常時介護が必要か否かを的確に検討することが必要です。これは等級を問わず、見守り介護が必要な高次脳機能障害全般に言える課題だといえるでしょう。
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