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京都地裁平成21年判決・大阪高裁平成21年判決について

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本判決は、我々が取り扱った交通事故の損害賠償請求事件であるが、京都地裁の訴訟指揮および判決内容には多大な問題があったと考えている。
本件訴訟の経過を説明し、京都地裁の対応の問題点を指摘することによって、同様の問題が再発しないための一石としたい。

1. 事案の概容
本件の被害者Xは、事故時28歳、症状固定時29歳、大卒の女性である。
Xは、自転車を運転している際、自動車と衝突する事故に遭ったため、左脳挫傷・外傷性くも膜下出血、頭蓋骨骨折などの怪我を負い、最終的に自賠責等級別表第一第2級1号に該当する重篤な高次脳機能障害を残した。
Xの高次脳機能障害の特徴は、衝動性、情動のコントロール障害、離人症状、脅迫・猜疑的傾向などの人格障害が著しいことにあった。具体的には、突如として精神的に暴発して暴れ出す、常に死にたいと考えている、実際に自殺を企図するなどの行動をとっていた。このため、主治医の処方の下、投薬によって精神活動を抑制する措置がとられていたが、効果は限定的であり、重篤な症状が続いていた。
Xの障害が重篤であるため、介護に当たっていた家族は、常に多大な精神的ストレスに曝されており、精神的・身体的に限界に達していた。

2. 本件の争点は多岐にわたっていたが、ここで問題とすべきは逸失利益の前提となる基礎収入の額、将来介護費の額の2点である。

  1. (1) 逸失利益について、Xは、平成11年に出された交通専門部3箇部による共同提言に基づき、Xが比較的若年であり、67歳までの38年もの期間、就労せずに無為に過ごす可能性は極めて低いこと、就業していた場合に平均賃金が高額となる40歳代後半から50歳代に比べて相当程度若年であること、Xは、事故時無職であったが、これは両親の体調が崩し、代わって家事を担うためであったこと、就業しようと考えていた矢先に事故に遭ってしまったことなどを主張・立証した。
    原審は、和解案において、理由を伏した上で、平成16年・女性労働者・学歴計・全年齢平均の350万2200円を基礎収入に採用していた。しかし、判決では、基礎収入をその70%に限定し、逸失利益を和解案よりも大幅に減額した。
    原判決は、基礎収入を認定するにあたり、その理由を挙げているが、その1つに「昨今の厳しい経済状況及び雇用情勢」を挙げている。ただ、この根拠に基づけば、好況期か不況期かによって基礎収入を増減されるため、法的な安定性を確保できなくなる。また、特定の時点における経済状況および雇用情勢が数十年もの長期にわたって続くことは考えにくいにもかかわらず、将来的に好況期が到来したときの雇用環境の改善や賃金上昇などを全く考慮しないことになるから、財産権(憲法29条1項)を過剰に侵害することになってしまい、大きな問題がある。
    しかも、女性労働者・学歴計・全年齢平均の賃金センサスは、一般的に主婦など家事労働に従事している者の基礎収入として用いられている。事故時、Xは、両親に代わって家事労働に従事していたし、若年であったから結婚して家事労働に従事する可能性が十分に認められるのであるから、平成16年・女性労働者・学歴計・全年齢平均の350万2200円よりも低い金額を基礎収入とすることに合理性は認められないことは明らかであった。
    Xは、控訴審において、これらの問題点について詳細に論じ、原判決の不当性を指摘した。結果、控訴審判決は、平成16年・女性労働者・学歴計・全年齢平均の350万2200円を基礎収入に採用し、原判決の不合理性を正したのである。
  2. (2) 将来介護費について、Xは、症状の重篤さと介護の過酷さについて、裁判所に十分な理解をしてもらう必要があると考え、高次脳機能障害の重篤さ・介護の過酷さなどを詳細に主張立証した。例えば、家族が作成した詳細な陳述書を証拠として提出するとともに、京都地裁の疑問に答えるべく、複数回にわたって主治医の意見書を証拠提出した。
    しかし、京都地裁は、Xの症状の重篤さと介護の過酷さを十分に理解せず、和解案では将来介護費についてXの生涯を通じて日額5000円と算定していた。
    当然のことながら、Xは、この様な和解案を受け入れることができず、尋問による追加の立証を経て、判決による解決を求めることにした。そして、裁判所に対し、Xの母の尋問とともに、事前に了承を事前に取り付けた上で、主治医の尋問を実施するように強く求めた。
    主治医は、長期にわたって継続的にXを診察しており、Xの症状を最も把握していた。しかも、高次脳機能障害に関する高度に専門的な知識を有しており、裁判所に正確な判断材料を提供することができた。このため、主治医の尋問を実施すれば、裁判所がXの症状や介護の過酷さについて正しく判断できたはずである。
    しかし、京都地裁は、主治医の尋問を採用しなかった。一時期、Xが受診を拒否したため、家族だけで受診して症状を伝え対処方法を相談していたことを捉え、十分な信用性を認められないと判断したのである。
    その結果、京都地裁は、和解案の内容を維持し、将来介護費について日額5000円という判断を下した。
    Xは、控訴審において、主治医の意見を重視すべきことを強調した上、介護サービスの利用には多額の費用を要することを具体的に主張立証し、高裁に正しく認定・評価するように求めた。
    その結果、高裁判決は、将来介護費を日額8000円と認定し、京都地裁判決を大幅に修正した。

3. 京都地裁は、和解案を作成する段階で、提出された訴訟記録を精査し、合議体での合議を行った上で、ある程度の心証を形成していたはずである。そして、和解案が提示された後、当事者は、逸失利益について新たな主張・立証は行っていないから、同一の出張立証に基づいて判決を下したのである。にもかかわらず、京都地裁は、基礎収入を和解案よりも低額とし、結論を大きく変えてしまった。
無論、和解案の内容と異なった判決を下してはならないと言うつもりはない。しかし、新たな主張立証がなされていない状況で、全く異なる心証を形成することができるとは考えられない。しかも、本件は合議係に係属していたから、和解案は、合議を経て作成されたはずである。にもかかわらず、原判決は、結論を大きく変更し、しかも、Xが家事労働に従事していた事実や将来的な結婚の可能性を全く考慮しなかった。
かかる事実は、合議係が合議の重要性を軽視し、自らの存在意義を没却したことの表れである。また、主張立証を尽くしていた当事者にとって、京都地裁の判決は不意打ちなのであり、和解に応じなかったことに対する報復的な判決であるとしか受け取ることができないのである。

4. 原判決が、Xの症状や介護の状況について事実を誤認し、評価を誤ったも問題である。
このような誤りが生じた根本的な原因は、京都地裁が、自ら有する情報の量・質を過信し、主治医の尋問を不要と判断してしまったことに求められる。
そもそも、裁判所は、あくまでも訴訟記録を通してしかXの症状などについて把握しうるに過ぎない。例えば、長期にわたって、繰り返し、Xの症状を観察していたわけではないのである。従って、裁判所が有している情報は限定されており、決して多くはない。これに対し、僅かな期間についてXが診察を拒否したとしても、主治医は、数年もの長期にわたってXを診察しており、Xの症状について有している情報量は圧倒的に多い。
また、高次脳機能障害に関する医学的な知見の量・質、多数の高次脳機能障害の患者を診察することによる症例間の比較などの能力について、主治医と裁判所との間には雲泥の差があることは明らかである。
とすれば、裁判所は、Xの症状などについて疑問点などがあれば、積極的に主治医の尋問を採用して、十分に審理を尽くし、事実誤認を避けるべきである。にもかかわらず、京都地裁は、主治医の意見を信用せず、自らが有している情報のみに基づいて独善的な判断をしてしまったのであり、事実認定や損害評価を誤るべくして誤ったといえる。
本来、合議体は、個々の裁判官の判断の誤りを、合議によって正すことを期待されているのであるが、本件においては全く機能しなかったと指摘せざるを得ない。

5. 本件では、幸いなことに、高裁判決によって、京都地裁判決が見直された。この結果、遅延損害金を含めた認容額の総額は約1.5倍に膨らみ、被害者が裁判所による二次的被害を回避することができた。大阪高裁が高い見識と正しい事実認定力を有していたことは十分に賞賛されるべきであるし、三審制が有益な制度であることを再確認することができた。
ただ、被害者を早期に救済するという観点からすれば、京都地裁において正しい判断がなされるべきであった。独善的な対応に終始し、効果的な合議を行うことができなかった京都地裁には猛省を促したい。

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